【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その三 『客席へ告ぐ!〜極私的レース場改革案』
 

 昨年オートレースで断行された「構造改革」を筆頭に、各競技において競争体系、賞金制度、選手育成…等々、様々な改革の動きがある昨今ではある。それはそれで歓迎すべき(そうでもないものもあるが)だが、肝心なモノを忘れちゃいまいか? それは「レース場をどうするか」である。言い換えれば、客が(特に初心者が)「ちょっと行ってみようかな」と思うような魅力ある場所づくりということだ。最初に断っておくが、私自身はいわゆる「ミーハー的」な客寄せ手法にはおおむね否定的だ。これは次回のメインテーマとするつもりだが、ギャンブルはオトコの世界だと思うから。男は基本的にミーハー性は持ち合わせていない(はずだ)。「ダンディズム」という言葉が、我が国では「ダンディ」となり、何やら「渋いオジサン」というような意味で理解されているが、これは意訳どころか違訳であって、本来は英国紳士文化から発生した「大衆に背を向け、孤高に生きる」という概念である。カッコつけるつもりはないが、ギャンブルの魅力もまさにそこにあるのであって、これをお読みの読者諸氏も、一度はレース場で「俺って…カッコイイ?」みたいな感覚に酔った経験はないだろうか。私はある。仕事や家庭のしがらみを忘れ、一人打ち続ける男は美しく、そんな男たちが集まるレース場は、外から見ても魅力ある場所…の「はず」なのである。

 そして本稿は、運営側へ向けてではなく、私自身と同列のスタンド客への提言だ。「レース場は男の世界。なら、今のままでいいんじゃない?」 いや、それは違う。違うぞ! 現在(特に平日)レース場にいる男たちをざっと見回してみよ。多くがお世辞にも美しいと言えるかどうか。垢抜けないジャンパー姿、裸足にサンダル履き…ぐらいならまだいい。中には布団から出てきてそのままのような、上下ジャージ・スウェット姿に寝グセの髪と無精髭、なんてオッサンまで結構いる。これが「カッコイイ大人に憧れる若い男」、はたまた「男を磨く大人の遊びをしてみたい」とやってくる初心者男性たちにとって魅力ある雰囲気といえるのか? もちろん否だろう。私の経験上でも、公営ギャンブル・レースに興味を持ち、「そんなに面白いのなら一度連れていって欲しい」と申し出てきた男が相当数いる。それで実際連れていくと、まず場内の客層を見て「うわぁ…」(いわゆる「引いた」状態)となる。なんか、沢から話に聞いたカッコいいイメージとは全然違うなぁ、というところであろう。こちらとしても否定できないだけに辛い。自分では「こういうオジサマ方が現在の公営ギャンブルの主要顧客層」というのは十二分にわかっているのだが、新規客の開拓急務という、もう一方での「現在」を考えると、この「見た目のマイナス点」は改善しなければならない、と思う。

 『どんな格好して行こうが大きなお世話! 気取らないところがレース場の良さだ!』
 『それはそうでしょう。でも、それがために公営ギャンブルは世間から白い目で見られ、貴方の大好きなレース場がなくなってしまうかもしれないんですよ』。

 数年前に拙ホームページ上で「場内のオジサマ方の服装をキレイにするには?」というテーマの文章を書いたことがあった。『例えば、通常配られている「ラッキーカード」。あの景品をオシャレなスタジアムジャンパーとかにする。もらったお客は当然「ありがたい」とそれを着て来場。それが度重なるうちにいつしか場内はカッチョイイ服装のオジサマでいっぱい、なんてのはどうか』。
 これはこれで結構反響をいただいたのだが、冷静に考えてみれば、こんなことで根本的改善にはなり得ない。やはり客自身の意識改革がどうしても必要だ。

 客席の清潔度がアップすれば…。それにより周辺住民のレース場に対する嫌悪感や、場外設置反対派の「治安悪化、子供への悪影響」といった主張もトーンダウンすることは間違いない。目先の新規客獲得だけでなく、未来に向けても大きな効果がある。だいたい、いくらテレビCMやポスターで見た目の良いタレントやカッコいい選手を出したところで、実際の客席の雰囲気が今のままでは(広告面の意に反して)そのギャップばかりがクローズアップされて、むしろマイナスだ。お客はほぼ100%の時間を客席で過ごすのだから。見た目華やかな宣伝ばかりを考えるよりも、いかにして広告と現実のギャップを埋めるか、を考えたい。「レース場にはなるべく電車・バスでお越しください」はもう聞き飽きたし、自家用車で大渋滞するほどお客は来ない(寂しいことだが)。それよりも「レース場にはなるべく清潔な服装でお出かけください」とやる方が今や重要だろう。

 宣伝におけるイメージ戦略、そしていくら競技自体の素晴らしさを喧伝しようとも、なかなか世間から受け入れられない公営競技。その一番のネックはまさにこの点にあると思うのだが、運営側はお客に対して「もっとキレイな服装で」とはなかなか言えないだろうし、客同士でも「大きなお世話だ」の一言で終わってしまう。ゆえに何一つ変わらないままここまできてしまった。ならばこの機会に言わせていただこう。反論・異論大歓迎。

 『明日からでもいい、レース場に行く朝には、いつもよりちょっと良い服を選んで身に着けてみませんか? 世間からの公営競技を見る目も変わるし、自分自身もレース場で俺ってカッコイイ? と思えるかもしれませんよ』。

(2006年7月20日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ。東京下町在住。20代の頃より全公営レースを最大の趣味とし、本業(旅行ガイドブック取材編集)のかたわら全国レース場を渡り歩く。現在は自ら雑誌編集・デザイン事務所を主宰。本年より公営競技ライターとしてデビュー。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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