【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その四 『オトコが燃える!レース場』

 最近嬉しいことが二つあった。  
 まず一つは日本自転車振興会・下重会長が競輪新CMの発表会の際にした「競輪場は男の遊び場でいい」という発言。そう、レース場は「オトコの場所」なのだ。それで新年度の競輪CMは「撮影:井筒和幸監督、主演:武田豊樹」でああなった。あの男臭さ、大歓迎だ。ここ最近の公営各競技の宣伝戦略、そして本場での各種客寄せイベントの方向性は、そのほとんどが「ファミリー向け」。競技そのものと全く縁もゆかりもないお茶の間タレントのCM起用、場内では子供向けの戦隊ショーなど。それらが結果的に売上と競技の普及につながったか、といえば答えは「ノー」だ。それは当然で、まず子供は投票券を買えないし(将来の購買層を育てる、というお題目はよく聞くが、現実問題として「未来より今」だと思いますが?)、女性は元来賭け事を忌み嫌う傾向がある。だからギャンブルである以上、「大人の男」の感性が中心になってしかるべきだし、ギャンブルを宣伝するには、男の琴線に触れるものでなければならない。

 嬉しかったことの二つ目は、インターネットTV「ギャオ」でこのほど始まった、ばんえい競馬中継バラエティ番組『BANBA王』だ。これはかの有名な野田義治氏の発案・総プロデュースによるもので、番組内容の素晴らしさについてはまた次回以降で述べたいが、野田氏といえば今まで一貫して「女性のお色気」でメディア界に一時代を築いた御仁。そんな氏が、なぜ公営競技番組を運営するに至ったかといえば、やはり「レース場という男の世界」に魅力を感じたからに違いない。なぜ魅力か? それは「我が国においてこれ以上オトコが弱くなってしまったら商売あがったりだから」だ。「男たちよ、ギャンブルで奮い立て!」というメッセージが込められているのだ(と思う)。

 レジャー・娯楽全般は今やすっかり女性が主導権を握り、「男の遊び場」といえるものはほとんどなくなってしまった。今や日本の男たちにとって、レース場は最後の砦だ。宣伝もまさにこの雰囲気を前面に出してゆくのが効果的であると思う。男臭さとギャンブル場という非日常的空間の魅力・面白さを加えた感覚。オスならばかなりの割合が「んむむ?」と興味を示すはずだ。ちょっと以前に私が考えた「自信アリ」の公営競技CMをここでプレゼンしよう。

 冒頭・レース場内で胸ぐらつかみ合う男二人(安岡力也氏風、及び故・横山やすし氏風が望ましい)
男A「てめぇ、なんか文句あんのかコラ!」
男B「やかましい!こちとらレース人生30年、命張っとんじゃ!」
それをこわごわ(でも好奇の目で)見つめる普通の青年。そこに発走ファンファーレ流れる。
男B「お、始まるぞ。競りは後じゃい後」
一緒に金網にしがみつき、大声で罵声を飛ばす二人。それを背中から見つめる青年。
 レース終了。金網から離れた途端、意気投合する二人。どうやら二人とも取ったらしい。
男B「な、このレース、これしかないんじゃ」
男A「おおよ。30倍はつけすぎと思ってた」
男B「飲みにいかんか?どうせ用事なんかないんだろ」
肩を抱き合いながら去る二人。
見送る青年、ぼそっと独白「オトコだ…」
(大きく文字スーパー)『レース場は濃いぞ』

 各競技共通で使えるこのCM案、いかがだろうか? タレントが嘘くさく「夢・ロマン…」なんて言っているものよりはよっぽどセンセーショナルだし、目を引くことは間違いない。前回書いた、現実(実際の客席の雰囲気)とのギャップ、というのもほとんど無いしね。まぁ、現況では実現は難しいだろうが、 いずれ皆さんがこれに近い線まで考えるようになってくる、と確信する。これが実現できるように変な広告規制を撤廃したり、運営側の意識改革を進めることも大事で、このCMを一つの目標と考えていただければ幸いだ。

 レース場内のエンターテイメントにおいては、あくまでも主役はレース。イベントは「ちょっと打ち疲れたので休憩を…」という程度のもので良い。前述・野田社長ではないが、グラビアアイドルなどのショー、そして格闘技系のイベントなども良いだろう。私が最も推奨したいのは飲食関係だ。確かに以前に比べれば良化はしている場内の食べ物だが、まだまだ「しょせんレース場の食い物」というレベルからは脱していない。「安くて気軽に飲める・食えるもの」から「しっかりしたもの」まで置くべきで、スタンドを建て替えるぐらいなら、中身を入れ替えるだけの方が予算も安いし、よっぽど効果がある。「レース場に行けば美味い酒と食べ物がある」というのはそれだけで呼び水だ。特に地方の場においては、「この街で一番ウマイ店はレース場にある」ぐらいのレベルを目指せば、雑誌・メディアが黙っていても宣伝記事を書いてくれる。

 さぁ、こうしてレース場は「男の・楽しく・ちょっとキケンな遊び場」として定着した。こうなればもちろん女性達だって興味が湧くはず。「なんか面白そうじゃない?」「男だけに楽しませておくのは悔しい!」 かくしていつしかレース場は老若男女で大いに賑わう場所となってゆく…のが私の夢なのだ。

(2006年8月5日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ。東京下町在住。20代の頃より全公営レースを最大の趣味とし、本業(旅行ガイドブック取材編集)のかたわら全国レース場を渡り歩く。現在は自ら雑誌編集・デザイン事務所を主宰。本年より公営競技ライターとしてデビュー。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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