【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その五 『当たらないものに客は来ない!』

 とにかくハンパでない売上減。民間企業ならとっくに「不渡り」ものの競技・場も少なくない公営競技にとって一番の急務は、売上・来客減のより具体的な原因を見定め、排除・改革してゆくことだ。今回から数回にわたってそのあたりを提言してゆきたい。

 まずは、私自身が昨今レース場に行き、周囲のお客のつぶやき・愚痴として最も頻繁に聞くのが「当たらないなぁ…」というセリフ。3連単という賭式が各競技で採用されて数年。当初の「ビバ3連単!」的な、やみくもに新賭式を賛美する論調はかなり静まり、ここ1年ほどは「3連単の功罪」として語られることも多くなってきたことは個人的には良い方向だと思う。話は簡単だ。「3連単は当たらない→当たらないとつまらない→こんなものやめてしまえ」という、人としてごく自然な展開。「(3連単は)客単価を下げる」とも言われているようだが、たとえ単価は下がっても買ってくれているうちはまだいい。いずれ目覚めて「やっぱり2連買いに戻そう」となってくれるかもしれない。しかしそれどころか、完全にレース場に来なくなってしまうのですよ、もっと当てさせないことには。

 競輪なら、10数年前までの枠単で全33通り、今の3連単では504通り。競艇で2連単30通りから3連単120通り、オートレースで枠単32通りから3連単336通り、多頭立ての競馬に至っては…もう数えたくもない。
 どう考えても選択肢が増えすぎで、枠買い時代に公営競技に入れ込んだお客が現在の3連単的レース予想に適応できるはずがないし、初心者にも難解なイメージしか与えない。展開を推理して絞るのが楽しいはずのレース予想が、いつしか「数打ちゃ当たる」宝くじ的発想になり、運営側もマスコミも「百万夢車券!」と煽り立てる。公営競技のギャンブルとしてのあり方って…そうじゃないでしょう? かなりの割合で「当たる」のが公営競技の魅力のはず。宝くじとは最初から期待値が違うのですよ。だいたい、いくら夢車券といってもせいぜい100円が数百万になる程度。億単位の宝くじと比べれば屁でもない。

 私の身内の話をしよう。例えばウチの嫁だ。普通に射幸心はあり、ジャンボ宝くじは欠かさず購入する彼女。自宅で私がネット投票をしているとたまに覗き込み、「堅そうなレースはある?」と聞いてくる。
「次は穴っぽいね」と答えると、「穴はいいから、3〜4倍ぐらいで確実に来そうなのがあったら教えて」とくる。億単位の夢は宝くじで、公営競技では手元の1万円を3〜4万にして服でも買いたい、という感覚なのだろう。各ギャンブルの期待値、という点では非常に正しい使い方だと思うのだが、いかがだろうか?

 そもそも、売上減に対する対症療法的な考えで発生したのが賭式の多様化(複雑化?)だと思うのだが、発券システムをはじめ、莫大な予算を投じておきながら結果的には客単価を下げ、客離れの原因にすらなってしまった(アテが外れたネェ…)。まぁ、せっかく構築したシステムを昔に戻すというのも逆に無駄なので、3連単を廃止せよとまでは言わない(ネットでは言っているのだが)。だが、放っておけば買い手は配当の高いほうに流れるのが自然なので、売っている限りはどうしても3連単中心になってしまう。そこで私が考える方策。

「3連単はオッズ表示をしない」

 それなら買う時点で高配当の数字がちらちらと目に入って惑わされることもないし、オッズがなければ大方の客が買う気もしないだろう(私など、あの3連単オッズモニターの細かい数字を見ただけで買う気が失せるが)。
 そうして2連単中心に買うようになってくれば、「当たった喜び」を得ることも増え、ますますレースが好きになる。ただ、中には依然「宝くじ的期待」で3連単を中心に買いたがるお客もいるだろう。そういう向きには、むしろレースが終わって初めて配当が発表される(昔は全てがそうだったわけだが)ほうが「こんなについたのかぁ」と、喜びも大きいのではないか。

そして「当たらなくなった」のは3連単のせいばかりではない。
●最近頻発する大量落車・事故
●度重なるルール改正(改悪?)
●選手の(ギャンブルの対象としての)意識の低さ
…等々、「当りやすい公営ギャンブル」に希望を抱いて来場するファンを裏切る事象は多く見受けられる。今後も各競技において色々な改革・方策が進められていくのだろうが、全てにおいて「お客が当てやすい」という点を発想の基本に持っていただきたい。
そして私と同列のお客さん達にはこう言いたい。
「3連単、当たらないでしょう? 当たらないとつまらないでしょう? せっかく大好きな○○(競技名)なのに、キライになってはもったいないです。3連単は遊び程度にして、もっと当たる所をメインに楽しみましょうよ」

 もう一つ付け加えたい売上減の原因に「大口客の減少」がある。これもやはり安心して大枚張れるレースが少なくなったからだろう。昨今、公営競技の運営側に食指を伸ばしているIT社長達だって、確実に取り込める2〜3倍のレースがあるなら、面倒くさいことしないで投票券を買う側に回ると思うのだがねぇ。

(2006年8月20日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ。東京下町在住。20代の頃より全公営レースを最大の趣味とし、本業(旅行ガイドブック取材編集)のかたわら全国レース場を渡り歩く。現在は自ら雑誌編集・デザイン事務所を主宰。本年より公営競技ライターとしてデビュー。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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