【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その六 『情報・メディアをフル活用せよ!(前編)』 

 客席の世代交代がうまくいかず、高齢化が進む公営競技。昔はそれこそ黙っていても客が来た。そして新規の客も「連れてきた」。職場で先輩が後輩を誘って、という形である。
しかし現在では職場の人間関係は希薄になり、先輩・後輩共に「休みの日まで職場の人間と顔を合わせたくない」という意識が進み、休日は家族やプライベートな仲間と過ごす傾向が強い。そこに元々からあるギャンブルへのイメージ悪さが重なり、若い世代がレース場に触れるきっかけは極端に減ってしまった。
 では、今の若い世代は何を頼りに自分のレジャーを探すのかといえば、もっぱら「情報」だ。
 若者といわず、現代日本人の情報に対する依存度・期待度は異様なまでに高い。中には、一切の対人関係を拒絶して自室に引きこもり、パソコン(インターネット)からの情報のみを生き甲斐にする人種まで出現する有様だ。そんな情報を、瀕死にあえぐ公営競技界が巧く活用しているといえるだろうか?

 情報とはいっても、テレビCMをドカンとやれとか、大部数の雑誌や新聞に全面広告をばんばん出せというわけではない。まずは既存メディアのあり方から考えようではないか。
 公営競技にとって最も身近なメディアといえば、スポーツ新聞、そして専門紙(予想紙)だが、日々発行されている各紙が、内容において「初心者に競技の魅力を伝え」「既存客に更なる購買意欲を湧かせる」ための情報たり得ているかどうか、といえば甚だ疑問だ。ハッキリ言えば「情報がしょぼい」のだ。
 例えば競輪の専門紙。各レースごとに選手コメント欄があるのはいいのだが、自力型選手のコメントが「自力。」と一言。これに何か意味があるのか、と問いたい。読者(お客)からすれば、「コイツが自力なのはわかってるわい!」であって、知りたいのは「逃げるつもりなのか、それとも捲りなのか」である。プロの記者ならそれを選手の口から聞きだして掲載するのが最低限の仕事であろう。全ての選手が正直にコメントするはずもないし、「逃げ」とコメントした選手が、結果捲りに回ってもいい。客側からすれば「この選手のコメントはウソが多い」という、それはそれでデータになるのだから。情報の拡充化というのは実にそういうことで、コメントが多ければ多いほど客からすれば選択肢が増え、購買につながることは間違いないのだ。だから、取材サイドだけでなく、選手側も売上アップのためにはもっと積極的にコメントを出すべきだし、運営側もそのように選手を指導することが必要だ。

 もちろん他競技でも同じような不満は多々ある。どんな些細な情報でも、それを予想ファクターとしたり、知識として取り入れたいお客がいる限り全て公開すべきだろう。選手とお客のふれあい的な場内イベントが増えてきた昨今だが、いっそのことロッカー(管理区域)と客席の壁を全て透明にして中が見えるようにしてはどうか? 公正性のため、あくまで選手との接触は不可だが、防音強化ガラスなどを用いれば不可能ではあるまい。最近話題の「旭山動物園」ではないが、選手のバックヤードでの素の様子が観察できれば、「お、調子良さそうだから買ってみようかな」と、購買欲につながるだろうし、初心者客にしても、身近で選手のナマの姿を見られるという状況は、競技への興味を高める良いきっかけになる、と思う。まぁ、我ながら突拍子もない案だとは思うが、そのぐらいの発想がないと情報の進化にはつながらない。

 話をメディアに戻そう。最近個人的に一番残念だったのが、寛仁親王牌決勝戦にまつわる一連の報道だ。岡部芳幸(福島)が、同県の山崎芳仁−佐藤慎太郎とラインを組まず、単騎自在を選択した。その決断に至る人間関係や経緯が、競輪ファンはもとより、「人間が戦う」一スポーツとして非常に興味をひくものだった。しかし、そんな状況がある、ということをどれだけのファンがわかっていたのか? 私はあまりに気になってつい前橋まで行ってしまったクチだが、現地で選手紹介セレモニー時などに周囲のお客のヤジを聞いていた限りでは、どうも「これまでの事情を知らないんじゃないか?」という人が多く、大変ガッカリしたのだった。確かに新聞各紙を見てみると、通常の選手コメントがあるだけで、この福島ラインの経緯についての小さな囲み記事の一つも存在しなかった。せっかくそんな面白い状況があるのに、知らずに競争を観て、知らずに車券を買うお客達…あぁ、もったいない。これは明らかにメディアの責任だ。

 前橋から帰宅後、私はすぐさま自分のブログ(日記風サイト)にこう記した。
「レース部記者の皆さん、もっと公営レースで騒いでくださいな」。
「TV解説者諸氏にも、こういう裏事情などをばんばんしゃべっていただきたい。裏方に出入りすることのできる方々の役割はまさにそこにあるのだが」。

 公営競技メディアに携わる方々には、客に情報を与えて購買欲につなげるための仕事をしてほしい、と切に願う。だいたい、レース部記者さん・予想紙記者さんなんて、競技が衰退・廃止なんてことになったら一番困るのは自分自身でしょうに(そのあたりの危機意識の無さがホントに理解できないのだが)。そして、その情報を使う運営側も、今までのような「載っていればいい」的な考えでは、他レジャーとのイメージ格差は開く一方だ。情報の出し方・見せ方について、世間に「面白そう!」と思わせる「エンターテイメント」を常に考えるべき(広告面もだ)。公営競技自体、人の興味をひくエンターテイメント的要素を山ほど持っている、と思うのだが。

(2006年9月5日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ。東京下町在住。20代の頃より全公営レースを最大の趣味とし、本業(旅行ガイドブック取材編集)のかたわら全国レース場を渡り歩く。現在は自ら雑誌編集・デザイン事務所を主宰。本年より公営競技ライターとしてデビュー。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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