【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その八 『公営競技IT時代』

 メディア・宣伝について記してきたここ数回だが、最後は「これからの時代を担う媒体」インターネットについて述べてゆこう。

 昨今、色々な事件等で社会問題化もしているインターネットだが、こと公営競技に関しては良いことずくめ、と言っていい。私的に考えるネットの第一の利点は「スペースに制限がない」こと。テレビCMの15秒間はもちろん、新聞・雑誌とて紙数には限りがある。
 その点ネットの場合、情報はいくらでも載せ放題。その分サーバースペース(ホームページのデータを入れておく「本拠地」の容量)を増やしてゆけばアクセスが重くなったり、不具合が起きることもほとんどない。ゆえに、膨大な量である選手・競争の過去データなども、フォーマットさえ作ってしまえば、全選手・過去数十年の競争分とて、いとも簡単に制作・アップできてしまう。この考えのもと、現在の各競技オフィシャル(公式)サイトでは、それぞれに詳細かつ精密なデータが掲載されており、例えば今までデータ欲しさに本場で予想紙を購入していた客なら、ネット上のデータを自分なりにまとめてプリントアウトすれば、もう予想紙購入の必要はほとんどない。競輪オフィシャルサイトなら全選手の過去8場所の成績(着順、ホーム・バック数など)が掲載されているし、競艇ならこれまた全選手の期別成績はもちろん、進入コース別の連対率、平均スタートタイミングまでが一目瞭然となっている。
 こうした「データもの」は、数あるメディアの中でもネットの独壇場である。紙媒体と比べ、検索機能に秀でている(ワンクリックで必要なデータがすぐ表示!)点も見逃せない。情報の「量」だけでなく、「質」としても優れているということだ。

 そして第二の利点として「エンターテイメント性」が挙げられる。
TV同様の動画、音声の使用まで簡単になった現在では、ネットが「最も表現の可能性に富んだ」媒体となった。ここで新しい広報宣伝の形などを色々と試してみるべきだろう。レースのライヴ中継のみならず、選手出演の企画ムービーなど、もっとあっていいはずだし、他媒体での広報宣伝にも直結するような企画、例えば各広告代理店が制作したテレビCMのデモ版をネット上で公開し、どれが本放送に最も適しているかをファンからの投票で決める「ネット上プレゼン」などはどうか。ちょっと頭をひねれば、面白く、かつ業界にとっても役に立つ企画はいくらでも出てくるはずだ。

 そして第三の利点は、何といっても「媒体としての未来」である。テレビ受像機の普及台数、そして新聞・雑誌の部数といったものがこの先飛躍的に増大することはちょっと考えづらいが、パソコン、インターネットの普及は現在でも右肩上がりを続けており(ひと頃に比べて緩やかになってきたのは否めないが)、この先、特に若い層への競技アピールには益々重要になっていくのは明らか。近い将来、今よりも更に「情報はネットで入手」が当たり前になる、と断言する。現在すでに一部の専門紙出版社では自社サイトで新聞同様のデータをダウンロード販売することを始めている。しかしこれは「先見の明」でもなんでもなく、メディアとして(自社が生き残るためにも)当然の流れだ。未だに紙媒体だけを発行し続けて安穏としている会社はそろそろ未来を案じたほうがいい。当誌にもオフィシャルホームページ『Web週間レース』が存在するが、内容的に更なる充実を期待したいところだ。

 さて、ネットといえば「ネット投票」である。全売り上げに占めるネット投票の割合もやはり右肩上がりであり、本来なら堂々「第四の利点」として挙げるべきなのかもしれないが、現在のところは諸手をあげて「良いもの」とは思えない点がいくつか、ある。
 それはかなり根源的な問題で、「パソコンを開いて自宅で打つような状態が、レースギャンブルに参加する形として正しいのかどうか?」ということ。私自身、ネット投票に加入した当初は「どうしてもレース場に行けない時の非常用に」というイメージで、実際そのような使い方をしており、「やっぱりレース場でナマで観るのが一番!」という気持ちは強かった。しかし、時が経つにつれ、徐々にレース場に行かなくなってくる。特に気候の厳しい真夏・真冬に至っては、自宅で快適な環境で打てるに越したことはない。交通費もかからないし…などと普通に思ってしまう。ここで考えるのは、ナマのレースの魅力に触れずして、自分自身この先ずっと公営競技ファンとしていられるのか? ということ。その不安を抱いた最近は、少しでも時間があればレース場へと出向くようにしているのだが。
 そしてネット投票はかなり確実に「客単価を下げる」。理由は明快で、本場に行けば目の前にはレースしかないので、ほぼ全レースを買うことになる(選んで買う、という立派な方も多いが、私はそれほど意志が強くない)。だが自宅にいれば、仕事や食事・家事など、他に何かをしながらの状態になるため、「見」ができる、ということだ。今のところ、売上的にもあくまで本場のフォロー的存在のものであるが、先々このシェアが増えていった際には、在宅投票が宿命的に持つ「客単価減少」が全売上げに大きな打撃を与えることが予想される。

 結論として、インターネットもやはり「諸刃の剣」だ。公営競技界に今後のネット展開の方向性として提言したいのは…

●「情報」はネットで
●「観戦・購入」はレース場で

という流れを作ってゆくこと。デジタルとアナログの使い分けができるセンスが必要だ。

(2006年10月5日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ。東京下町在住。20代の頃より全公営レースを最大の趣味とし、本業(旅行ガイドブック取材編集)のかたわら全国レース場を渡り歩く。現在は自ら雑誌編集・デザイン事務所を主宰。本年より公営競技ライターとしてデビュー。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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