【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その十 『客席側身内対談〜公営競技は生き残れるか?』

 連載も今回でついに十回目。ここまで好き勝手に書かせていただいた「業界への提言編」は今回で終了。次号からは装いも新たに、沢流・公営競技エンターテイメントとして毎回色々な企画をお送りいたしますのでよろしく。

 さて、公営競技は近い将来どうなるのだろうか? 私自身が『賛成派』と名乗り、こうしてモノを書いているのも、元はといえば「自分の老後まで公営競技が残っていて欲しい。更に、今よりも盛り上がっていて欲しい」というのが最大のモチベーションだったわけだが、果たして残るのか? どうなのよ? というわけで、過去9回の総括の意味も含め、仕事場の若手編集者・K君(20代前半、公営競技歴2年)と会話してみた。以下はその一部始終である。

「まず、君達若い世代が最近レース場に行って、どう思う?」
「とにかく、他のレジャーに比べて平均的に施設が良くない。あれじゃよっぽどのギャンブル好きじゃなけりゃまず行きません。僕なんかはあの独特の雰囲気が好きでもあるんですが」
「そこは難しいところだよね。俺も、賭場的空気が好きな人間の一人だが。でもそれじゃ昨今、新規客は?めないのも確かで」
「新規客として、どういう層が望ましいのかも問題ですよね」
「これだけ売り上げが下がっている現状では、まずは即戦力というか、しっかりお金を使い、通えるパワーもある30代後半〜40代の男性客を取り込むのが第一。次に、近い将来のために20〜30代前半だね」
「あと、よりリアルタイムな話で言えば、いわゆる2007年問題ではないですが、ここ最近定年になる団塊世代の方々の老後の趣味としての需要を?むのもチャンスかと」
「そうなると、宣伝方法が難しくなってくるよね。全ての世代に訴えることのできる広告を考えるか、それとも世代ごとに戦略を組むか」
「ゲームとして面白くて・お金が儲かる可能性もある、という単純な線でむしろいいんじゃないですか? 最近の広告はその王道を忘れて変にバラエティに走りすぎているような気がします」
「賭け事、儲かる、といったような広告表現は規制が多くて殆んどできないに等しいからね。まぁ、別に法律のもとでの規制でもなんでもなくて、媒体側の勝手な自主規制みたいなものだが。これだけ売り上げがヤバいんだから、そんな規制は業界を挙げて積極的に撤廃の方向で考えるべきなんだけど」
「ギャンブルをギャンブルとして売れなくて、それでダメになったら納得いきませんよね」

「施設、という点では最近ちょっとした朗報があって。経産省が競輪・オートレースの活性化のためにいくつかの法改正を検討中なのだが、その中に交付金の還付制度というのがある。早い話が、いったん施行側から国に納めた交付金の中から、レース場活性化のための資金を戻してくれる(還付)らしい」
「それで場をキレイにしたり、新しい施設を作ったりすると。…でも、それだけじゃ新規客の開拓にはつながりませんよね」
「そこなんだよ。たぶん施行側は、そんなお金が発生すると、やれ大型ビジョンを設置しようだの、観客席をハイテク化しようだのという方向に向かいがちだが、それはあくまで既存の客に対してだけのもので。せめて何分の一かは新規客獲得のための広告宣伝費に充てるべきだろう。還付するにあたっての投資対象の範囲もこれから決められていくらしいが、その中には広告費も加えてもらわないと有意義な制度とはいえない」
「もしそれが叶ったとして、どんな広告を打っていくのかは、各施行者さんのセンスが問われますね。そこにこそ民間・客席側の発想が必要かも。あと、広告以外ではアクセスの改善。ただでさえ駅前にあるパチンコ屋に比べて不利なんですから、廃止・縮小の一途にある無料バスの運行にも予算を充てて欲しいです」

「公営レースを全く知らない友人達と話をしていて、なぜやらないのか? と尋ねると、やはり第一にイメージが悪い。でも、遊びとしては面白そうとは思うと、結構な人数が言います。そんな中から何人かは…特に周囲にレース好きがいれば、レース場に来ることはあるでしょうし、そんなお客をいかに離さず好きにさせるか、ということを考えないと」
「その点でも問題は多いよね。パチンコはじめ、他ギャンブルに比べても不利な部分…例えば25%という控除率の問題。最初からいきなり四分の一取られるというのは、初心者にとってはショックだろう。現況では率を下げるという具体的動きはないようだし、四分の一取られても、なおかつ楽しいと思わせるのは至難の業。加えて、そんな初心者の期待を裏切るようなシステムや競走上の問題も山積だ。当たりづらい3連単の乱発、度重なる事故レース…」
「最近、競輪で落車が多くて、という話をすると、知らない人は『落車するとお金は戻ってくるんでしょ?』と平気で言います。いや、戻らずそのまま、と答えると『そんなの、パチンコでいえば、穴に入った!と思った瞬間に釘が折れたようなものだ。よくお客は文句言わないね』と返されました。確かにそうですよね」
「うむむ、例えが素晴らしすぎて言葉もない。公正な競争も大事だが、客にとっての真の公正とはレースの成立、全員完走だ。そのあたりは運営側・選手ともに肝に銘じて欲しい。折れるクギは取り除く…事故・落車に関わる罰則を更に厳しくするべきだろうね」
「今のところは主要客層である年金世代からの売り上げを自転車操業のようにしてどうにかなっていますが、それじゃかなり近い将来に確実にドカンと下がる時が来ます。若い世代にとっての魅力ある公営レース、を多方面からもっともっと真剣に考えて、ごく早急に実行しないと」

 以上。ワタクシとその一味は、今後もこれらの発想と信念のもとに、微々たる力ながら活動してゆきますのでよろしくお願いいたします。競争の充実と、効果的な広告宣伝をもって一人でも多くのお客をレース場へ! そして読者の皆さん、今後も公営レースを楽しんでいきましょう!

(2006年11月5日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ。東京下町在住。20代の頃より全公営レースを最大の趣味とし、本業(旅行ガイドブック取材編集)のかたわら全国レース場を渡り歩く。現在は自ら雑誌編集・デザイン事務所を主宰。本年より公営競技ライターとしてデビュー。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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