【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

その十一 『いよいよスタート!全国旅打ち…の予告編』

 今回からは公営レースを題材に面白いことを何でもやろうという本ページ。まずは本誌ウェブにて近日連載開始の「全国全場旅打ち企画」のサワリから

 そういうわけで「旅打ち」なのである。今夏に編集部から話を頂戴した時には「では、旅情溢れるレース場を20ヶ所ぐらい」のつもりが、いつの間にか構想は膨らみ「約1年で競輪・競艇・オート全77場プラス地方競馬もちょこちょこと」に! 
 そうして旅打ちの日々が続く現在。本誌オフィシャルサイトでの掲載開始を前に、その一部・桐生競艇場編を誌上で公開。

■華やかなG1に!
 レース場に行くといえば平場が多い最近。たまにはビッグレースの熱気に包まれたい…と考えていたら、比較的近場の桐生でG1が開催中なので行ってみることにした。お供は仕事場の若い衆・K藤である。入社後、私が3競オートを教えて早や2年。今では立派に年収の大部分をつぎ込むようになった、らしい。
「突然だが、明日群馬県に連れて行くから切符を買ってこい」
「ぐ、群馬ですか? じゃ東京駅から上越新幹線でしゅっと」
「いや、浅草駅から東武線でトロトロと、だ」
 桐生は群馬とはいえ、上越新幹線とはほど遠い位置にある。東京からダイレクトに行けるのは東武の特急『りょうもう号』だけだ。
「買ってきました! 私鉄は安いですねぇ。2時間近く乗るのに片道2千円。てことは…時給千円ですよ」
 どんな計算じゃい。じゃ、今日は早上がりして。種銭はちゃんとおろしておくようにな。
藤「いざとなったら電投で」
「キミ、あのスタンドでチマチマ電話投票するのやめろよ。みっともないから」
藤「現金持って行くと際限なく使っちゃうじゃないですか。だからその日の分をきっちり決めて口座に入れておくんです」
 堅いんだかクズなんだか、よくわからない男だ。

■度肝を抜く色彩
 翌10月19日、昼過ぎに新桐生駅に到着。ここから競艇場までは無料の乗り合いタクシーがあるという話だが…それにしても、駅前に全く人がいない。本当に今日この近くでG1やるのか? 平和島あたりのビッグでは、駅の無料バス乗り場にだーーーーっと客が並んで、列の最後尾は競艇場の正門だった、ということもあったぐらいだが。
「冗談が冴えてますね、今日は」
 わーい、ホメられちった。やっぱりまだ開門前だし、タクシーもいないんじゃないか、と思ったら目の前にいた。しかも4台も。早速乗り込むと、他の客を待ったりせずに即発車。

「これがタダとは、ぜいたくな感じだな」
「僕初めてです、こんなの」
 K藤は東京近場の場でしか打ったことがないのである。
「地方に来ると結構あるんだけどな。で、運転手さん、帰りもクルマはあるの?」
運「いや、これは行きだけで。帰りは客待ちのタクシーがいます」
 帰りは有料らしい。バスもないし、行くときだけいい顔して、帰りはご自由に、か。
藤「薄情な感じですね。オケラになったらどうするんですかね」
「行きは有料、帰りがタダの方が客の実情に合ってるよなぁ」
 いや、そんなマイナス思考はいかん。勝てばいいのだ、勝てば。

 到着すると、今まさに開場したところのようで、客が続々と場内へ吸い込まれてゆく。
「で、我々はどのへんで?」
「いや、実は今日はだな、目当てがあるのだよ」
 この桐生競艇場、昨年新スタンドができてからというものの、そこを中心に度肝を抜くハイテク化がされているらしい。中でも目玉企画は「ムーブ&ウィン」なる移動型投票システムだ。
「移動型…客席まで穴場のオバちゃんが来てくれるんですか?」 
「それじゃ滅茶苦茶ローテクだろ! 客が場内を歩き回りながら舟券を買えるんだよ」
 なんでも携帯電話を使って、場内電話投票的なことができるらしい。その受付をすべく、南側の新スタンドに入る。…と、そこには今までのレース場の概念をくつがえすビジュアルが展開されていた。

「うわ、何だこの色彩は!?」
「床が赤、イスは黄色…中華風ですね」
「最近のパチンコ屋、いや、ゲーセンみたいだ」
 まばゆいばかりの極彩色。濃い赤を多用しているあたりは、客をストレートに興奮させ、舟券購入額を上げようという狙いか。
「我々は牛ですか!」

■新システムに泣く
 真新しい案内カウンターに行き、このムーブ&ウィンというやつを…と告げると、係員(結構若くカッコイイ兄ちゃん)が待ってましたとばかりに説明を始める。
係員「では設定をしますので、お二人の携帯電話をお願いします」
 え、携帯?見るの? 嫁にも見せないようにしてるのに、いやん。
「相当やましいことがあるわけですね」
係員「……(目が「さっさとしろよ!」と言っている)。」
 では、と携帯を取り出す。最初に提示されたQRコード(あの、白黒でまだらで四角いやつね)を読み込み、専用サイトにアクセス。そこでパスワード設定などをし、それから場内の専用窓口で種銭…ここでは資金というのか…を入金、これで晴れて場内どこででも舟券が買える。
 入金を済ませた2Rから打ち始め、4Rまでに入れた分はパァ。携帯片手に気軽にばんばん打てる、という形もあって、まぁ面白いように溶けてゆく(泣)。
 フードコートで海鮮丼(500円にしては豪華)を食べていると、机上に宣伝プレートが置かれている。

「待たない・書かない・並ばない…、か。当たらない、も加えたいな、まったく」
「その冗談は笑えませんね」 
 二人とも目の焦点が合っていない。もうこれはイヤだ。普通の客に戻りたい。てなわけで、追加入金はすることなく、現金打ちに切り替えることにする。

■3連単全点流し敢行!
 6R。ここまで1着は全てインあかカド。期待を持たせる格上選手がことごとくツブれているという流れだ。
「こうなったら誰であろうとインからいきます。ここは…2連単なら1=5がオイシイ配当なのでそこで」
 早くもイン絶対思考に囚われるK藤であったが、最近の競艇、特にSG戦ではこの手の客が多いことは想像に難くない。その上ここ桐生、この春にイン勝率を上げるべく、1マークをバック側に5メートルも動かしたという…。
 それでもヒネクレモノの私、こういう時こそセンターから、とばかりに4、5から手広く。すると結果は何と1−5。K藤の何も考えていないイン買い、大当たりである。くくく。

 続く7Rの1−4も本線で取ったK藤は絶好調モード。そしてそんな彼の口から魔の誘いが…。
「確かにインばっかりですけど、3連単の配当はそこそこですよね。流せば儲かるんじゃ」
 む、確かに。インは堅いが結構なヒモ荒れ傾向。ここまできたら毒を食らわば皿、いや、テーブルまで。イン1号艇アタマの3連単全20点流しだ! 20点を均等買いなので、最低20倍つけば勝てる……。
 10R。イン・今垣光太郎が1マークのせめぎ合いを制して勝った。いいぞ今垣! いいぞ俺!
 そして電光掲示板には「1−2−4 3連単1180円」と本日最低配当が華々しく表示されたのであった。そうなるか……

 優勝は地元・江口晃生だった。ダントツ1番人気の山崎智也、濱野谷憲吾を見事すぎる最イン差し&2マーク先マイで制した。地元スターのこのG1初戴冠とあって、優勝セレモニーは盛大だった。花火も上がった。皆が笑顔だった。
 私がそのセレモニーの場まで居残っていたのは他でもない。新幹線での帰京も、近くの薮塚温泉での豪遊も不可能となった今、次の電車・最終浅草行き鈍行まであと1時間近くもあったからであった。

 …こんな調子で繰り広げられる全国全場旅打ち紀行は、『Web週間レース』にて12月より連載開始予定。お楽しみに! そして、全国各場でご一緒いただける地元ギャンブラーの方々からのご応募もお待ちしています!

(2006年11月20日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ、東京下町在住。造り酒屋の家系に育ち、放蕩な青春期を送る。20代より公営全競技を最大の趣味とし、現在も本業(編集・デザイン事務所主宰)のかたわら全国レース場を渡り歩く。本年より公営競技ライターとしてデビュー。座右の銘は『人生は種銭稼ぎ』。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
ご連絡は本誌編集部、もしくはEメール tom@sanseiha.net まで。