【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

vol.13 「全場廃止!? ばんえい競馬を救おう! 前編」


去る11月下旬あまりにも突然に全廃に向けた決定が下された北海道・ばんえい競馬。
最後(?)の北見開催と周辺事情を現地からレポート!


 まさか、こんなに急に、しかも「全部無くなる」とは思ってもみなかったのだ。

 今年、私は個人的な取材活動として「ばんえい記念の1年」というテーマで春の旭川開催以来、足繁く北海道に通っていた。その最中、夏には旭川・北見を廃しての2場開催話が出始め、その後両市が事業撤退の意思を表明。ああ、これで来年からは2場開催か…最後の北見はしっかりと取材しよう、と最終開催に訪れるべくチケットを入手したのが9月末。ところが、11月に入って事態は急転! 当初は帯広との2場開催の方向に動いていると思われた岩見沢市が、市長の諮問機関を通して撤退を示唆。もとより存続派だった帯広市も当初から「我々1市だけでは苦しい」との意思を表しており、結局ばんえい競馬は競技そのものが廃止ということに。よりによって自分が年間取材を志した年にこんなことになるなんて…私ってもしかして疫病神? 確かに厄年だけどさぁ。

 向かう前日が撤退発表、という最悪のタイミングでの北見入り。取材のアポイントをいただいている市営競馬組合の方々の落胆ぶりやいかに。…あんまり会いたくないかも。競馬場内外各所の最後の風景や、最終日には次開催場・帯広への引越しの模様などを取材させていただこうと思っていたのだが、そんな場合じゃないよなぁ、きっと。 ええい、成り行きに任せるか、と開き直った気持ちで女満別行きの飛行機に乗り込んだ。今回ご同行いただけるのは公営競技界の大御所アナウンサー・蘇武直人氏。特に地方競馬においては全国全場での実況制覇という偉業を成し遂げている蘇武氏だが、その最後の場となったのが北見競馬場ということで、思い出深い地なのだそう。9月にお酒をご一緒させていただいた際に「北見、一緒に行きましょう!」と共に盛り上がったのはいいが、まさかこのような当日になろうとは…いや、もう愚痴は言うまい、喋るまい。

 機内で蘇武氏が言う。「市単位の開催場だと、廃止話が出るとかなり早いペースでコトが進んじゃう。都道府県が絡んでると各種協議やら調整やらで結構時間がかかるんだけど。前になくなった上山競馬(山形県)の時なんか、元は市長・助役・収入役の3人が茶飲み話してるところから(廃止話が)始まったという噂もあるぐらいで」 …そんな簡単になくされてはたまったものじゃないな。

 空港からレンタカーに乗り継ぎ、競馬場までは約40分。場内に入ると、やはり今開催をもって廃止という情報が流れたせいだろう、多くの客でごったがえしている。ばんえい4場の中でも開催期間が短く、その分アツい客が多いと言われている北見。場内を歩くと方々で「本当になくなってしまうのか?」「寂しい」といった声が聞かれる。そして、そんな地元客に声をかけ、コメントを取ろうとするTVクルー、新聞記者…。こんな時しか来ないんだからな、と言いたくなる。だいたい、今回の存廃問題に関しては、地元の一部メディアが廃止の方向性に誘導したような部分もある。ことさらに赤字額や経営の杜撰さを書き並べ、最後に申し訳程度に「しかし、馬産地文化の継承のためには…」などと加える、中央メディアのいつものやり口。競馬をレジャーとして楽しんでいる一般ファンの言い分などはこの時点では全く出ず、廃止翌日になって「最後の日に涙ぐむファンの言葉」だけが掲載される。公正なメディアたるもの、存廃問題が浮上した時点で全ての立場の人々の意見を取材し、分析・論争の場を展開するのが使命ではないのか? …と考えつつ、早速私本来の使命である「馬券を買って売上貢献」に入る。

 ばんえい競馬は200メートルの直線コースで行われる。途中に小・大2つの山(障害)があり、数百キロの鉄ソリを曳いた馬がそれをあえぎあえぎ登りきった瞬間には言いようのない感動を覚える。個人的には平地競馬よりもビジュアル的感動度は高いと思うし、十分広報宣伝に値するものだ。 11月最後の日曜日。この日のメインレースは北見開催の集大成とも言うべき「G1北見記念」。道東の夕暮れは早く、まだ16時過ぎだがあたりは真っ暗。少ない照明でのナイターレースとなる。G1だけあっていつもの2割増しほどの重量を負わされた各馬。白い息を吐きながら障害に挑む。もちろんいつもより時間がかかる。先頭の馬が登りきった瞬間には場内大歓声だ。

 この日の入場者数は2千2百。昨今では出色の数字で、売上も1億を超えた。30億の累積赤字が取り沙汰されているが、売上額自体は今でも年間百億を超える。今の北海道に百億円レジャーはそう存在しないはず。これを簡単になくしていいのか?この感動の「祭り」をもう見られなくしていいのか? 明日はいよいよ最後の一日。「競馬場がなくなる日」をこの目で見なくてはならない日だ。

〜以下次号〜

●地元有志の方々による存続要望を集めるホームページ●
http://www.gracom.net/nokosou.html
時間がありません! 本誌読者、公営競技業界の皆様もぜひご協力を!

(2006年12月20日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ、東京下町在住。造り酒屋の家系に育ち、放蕩な青春期を送る。20代より公営全競技を最大の趣味とし、現在も本業(編集・デザイン事務所主宰)のかたわら全国レース場を渡り歩く。本年より公営競技ライターとしてデビュー。座右の銘は『人生は種銭稼ぎ』。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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