【 コラム colum 】

公営レース賛成派
〜客 席 か ら 本 音 で 語 る 公 営 競 技 〜


公営競技ライター 沢 ともゆき

vol.14 「全場廃止!? ばんえい競馬を救おう! 後編」


ばんえい競馬は帯広の単独存続が決まった。
その一方で、北見・岩見沢の2場は廃止が決定。
「競馬場がなくなる日」を実体験レポートで綴る


 平成18年11月27日月曜日。北見競馬場は今日の開催をもって事実上廃止となる。そして本日午後、岩見沢・帯広市長による記者会見が予定されており、その内容次第ではばんえい競馬という競技そのものが終焉を迎えることになってしまう…そういう日だ。
 昼前に競馬場に着くと、さすがにいつもの月曜開催よりも多い客数が訪れているようだ。駐車場はかなり奥のほうまで車で埋まっている。駐車場係のおじさんがやって来た常連客と大声で話している。

「ホントに今日でなくなっちゃうのかい?」
「いやー、なくなんないだろ! 大丈夫だきっと」

 この人たちの中では北見に競馬は「あって当たり前、なくなるはずがない」。だって、自分が生まれた頃からずっと続いてきたものなのだから。
 全国公営競技場中最も簡素な正門をくぐる。北見競馬場唯一の客席スタンドは、地平から上へ向かって階段席が伸び、階下が馬券売り場という構造だが、今日はその地平フロアが人で溢れんばかりになっている。
 グッズ売り場では、ばんばのぬいぐるみ、レース映像を収録したDVDなどが次々と売れている。
 その脇では、普段は日曜日にしか催されないバックヤードツアーの集合が行われている。見ると、参加客は若い層が多い。 スタンド裏の食堂へ行くと、お運びのオバチャンと地元の女性客が談笑している。
「最後だから、来てみた」。
 スタンドでは多くの新聞記者やTVクルーが客を誰彼なくつかまえ、インタビューをしている。
 …どれもが「最後の日」でしかあり得ない光景。駐車場係のオジサン、残念ですがやっぱりここに来年競馬は来ません。



闇の中、最後のレースが終わった

 レースは進むが、そんな光景を眺めながらではあまり馬券を買う気もせず、場内をうろつくうちに時間ばかりが過ぎてゆく。そういえば、今日の岩見沢・帯広両市長の会見はともに15時前後に行われるらしい。もうその時間だ。
 何はともあれ、どういう結果になったのかは知りたい。開催本部のあるスタンド最上階へと向かう。失礼します、とやや控えめに発声して室内を覗くと、電話の前で座っている広報氏、そしてそれを取り囲むようにして見守る新聞記者数名。
「まだですかね」「だいぶ長引いているらしい」などと、時折話す他は、焦げるような沈黙が続く。私も成り行き上、一緒に一報を待つ形になったが、今思い出しても居づらい、嫌な数十分間。
 脇のモニターで11レースが発走しようという頃、電話が鳴った。「岩見沢、撤退」……。

 岩見沢撤退、イコール競技全廃(帯広が「1市開催は無理」と表明していたため)という認識がもっぱらだったこの日。つまりはこの時点で「ばんえい競馬廃止」である。いたたまれなくなった私は、スキを見て部屋を離れ、最終レースを打つべく客席へ戻った。

 その晩は、競馬組合の御仁にお誘いをいただき、打ち上げの宴に参加させていただいた。共に飲み、話をした事務や発券の女性たちは、北見開催期間中だけの「季節労働者」だ。1年間のうち、たった2ヶ月間だけの仕事だが「毎年競馬が来るのが楽しみだった」と口を揃える。北の女の気丈さか、涙こそ見せないが、その競馬が来年からはもう来ない、という言いようのない寂しさが言葉の端々から感じ取れ、慰める言葉もない私は、全く関係もない馬鹿話を仕掛けながら差し出される杯を受け続け、すっかり酩酊してしまったのだった。



翌・火曜日の朝刊は各紙が「全廃」と書きたてたが、
現在は存続が決定済み。報道の性急さも問題を残した。

 翌朝、ホテル近くのコンビニへと向かい、新聞全紙を買い求める。一般紙、スポーツ紙含め、各紙に「ばんえい廃止」の見出しが躍る。あぁ、本当になくなってしまうんだなぁ、と二日酔いの頭で再確認する。女満別空港へと向かう帰路、考えていたのは「(12月以降開催の)帯広は行こうか、どうしようか」である。年間取材を志してここまで続けてきたものの、「ばんえい競馬の四季」をまとめたかったのであって、「ありし日のばんえい競馬」を書くつもりはないし、書きたくもないのだよ。

 既報の通り、これを書いている12月17日現在、ばんえい競馬はIT系大手企業の支援により、来年度の帯広一市での存続が決定した。そして本日の管理者会議の結果、本年度の日程も途中打ち切りはナシで、最後(3月末)まで行われるようである。しかし、この先も問題は山積みだ。そもそも馬券の売上増に対する具体策がネット投票の拡充だけでは心細すぎる。競馬場とその周辺のインフラ整備、広報宣伝、場外展開など、効果の見込める方策を早急に実行してゆかねば更なる継続は望めない。「世界で唯一の競馬」「北海道遺産」など、観光・広報面に魅力的な要素も多く持つばんえい競馬だけに、今後の運営にはその方面の人材・センスが不可欠であろう。

(2006年1月5日号)


筆者●沢ともゆき プロフィール

昭和40年代前半生まれ、東京下町在住。造り酒屋の家系に育ち、放蕩な青春期を送る。20代より公営全競技を最大の趣味とし、現在も本業(編集・デザイン事務所主宰)のかたわら全国レース場を渡り歩く。本年より公営競技ライターとしてデビュー。座右の銘は『人生は種銭稼ぎ』。

『公営レース賛成派』 <http://www.sanseiha.net/>
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