「さぁ、最後の半周! 誘導が離れた!頑張れ!追い込め!!」
場内に音声割れまくりの絶叫がこだまする。先日の大宮記念競輪でのイベント「素人競輪王」での一コマだ。そしてバンク内でこの白熱の場内実況をしているのは、なんと現役競輪選手なのである。
永倉通夫 46期 現級A2
通算勝利数459
日本競輪選手会埼玉支部長
競輪オフィシャルHPの選手データ。永倉選手の欄にはこんなメッセージが掲載されている。「選手、ファンの隔たりなく、応援してくれる人間、応援される人間として交流をもちましょう」。
その「交流」の一環としてか、昨年夏、本誌連載を始めたばかりの私のもとへ、編集部を経由して永倉選手からご連絡をいただいた。お誘いいただくままに開催中の大宮競輪場へ向かうと、そこでは現役選手達による客席イベントが行われていた。聞けば、それらの発案はもちろん、選手とお客が直に触れ合う(従来のサイン会程度のものとは規模が違う)というイベントの方向性に難色を示す関係諸方面への交渉、そして実現した今では毎回の具体的企画をたて、自ら司会進行役までつとめる…。
こんな選手がいるのか!?
と衝撃を受けた私は、それ以降永倉選手への密着取材を敢行。今回の大宮記念はそんな彼のファンサービス魂の集大成といえるものだった。
一日だけでこのイベント量!ほとんどの
企画の進行役を永倉選手が務める。
記念開催二日目の日曜日。最も集客が見込めるこの日は「選手会による記念ジャック」と銘打って、一日中数多くのイベントが行われた。中でも目玉は『名輪会トークショー』。そのメンバーは見ただけで震えがくるような凄いものだ。高倉登、黄金井光良、高原永伍、白鳥伸雄、竹野暢勇、稲村雅士、山口国男…。これらの名士たちが一同に会するなどまさに空前絶後。しかしここでふと疑問が浮かぶ。この一筋縄ではいかない錚々たるメンバーを相手に誰が進行役を?
もちろん永倉氏なのであった。黄色いスタッフジャンバーを着て壇上に上がり、ゲストの名選手たちを次々と客席に紹介してゆく。紹介の端々にはさまれる各選手の現役時代の走り・エピソードなどへのコメントは半端な知識ではできないもので、なかなかに流暢な口調もプロの競輪アナウンサー顔負け。事前に競輪場の某アナウンサーが「永倉さん、僕らの仕事取らないでくださいよ」と言ったというが、まんざら冗談でもなさそうな感じではある。
往年の名選手がずらり勢揃い。観客も興奮
客席側だけでなく、バンク内でも彼の勢いは止まらない。いつもは専門の女性アナウンサーなどが行う決勝進出メンバー公開インタビュー。これの仕切りも今回は永倉選手だ。各選手の事務的でない、本音の声を聞きだそうというインタビューは、車券を買うお客にとっても非常に役立つもので、私も「よくやった!」と思わず喝采。ただ、しゃべり好きの永倉氏、ちょっと話が長すぎて、9選手は若干ダレておりましたが…。まぁこれとて、できればこういう形が当たり前になって、選手側の方に慣れてほしいもの。
「もう選手は走っていればいいという時代ではない」と永倉氏は言う。自らファンとの交流を求め、お客様に来てもらうことが大事なのだと。
こんな話も聞いた。ある日、競輪場の無料招待券を大宮駅頭に立って道行く人に配布していた永倉氏(これだけでもスゴイが)。手渡したある若者に「競輪場に来てよ」と言うと、「競輪なんて汚いし、ダサイ」という反応。それにひるむことなく、「なぜ競輪場はダサイと思うの?」と10数分やりとりを続け、ようやく『食わず嫌い、勘違い』に気づきかけた若者が「じゃ、今度行ってみます」となり、後日実際に競輪場に現れた。その日、彼は競輪にハマり、次回以降仲間も連れてくるようになり、今では10数名のコミュニティになっている…。
何度でも言おう。「ここまでやる選手がいるのか!」
もちろん、自らの選手としての生活もある。40代後半の年齢にしてA2班をキープしているのは驚くべきことではないが、これまで書いてきたような多くの行動、そして支部長としての激務をこなした上で、なおかつ練習・競争をしているというパワーは十分驚嘆に値する。通算500勝まであと40。ぜひ達成して、地元大宮バンクで大々的にセレモニーを催していただきたい。おっと、その司会すらも自分でやったりして(笑)。
この永倉選手が目下一生懸命取り組んでいるのが「公営全競技のコラボレーション」だ。そのワクワクするような詳細については次号にて。
(2007年2月20日号)
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