この日、開催中の大宮競輪場のバックヤードにはいつもと違った緊迫感があった。これから行われるのは「高校生競輪競争体験学習」。…早い話が、高校生選手がレースの合間を使い、バンクでガチンコの競輪を行うのである。
この面白いイベント…いや、競争を企画したのは以前にもご紹介した永倉通夫支部長率いる埼玉競輪選手会。競輪界にとっては「未来のスター候補生育成」。そして高校生側にとっては「就職活動の一環」として、まさに一石二鳥。そう、今日は出場選手のご家族や自転車部顧問の先生たちもが一緒にご招待されているのだ。してみると、ご家庭・世間においてもギャンブルの悪イメージを払拭する良い機会。これは一石三鳥かもしれない。出場は8選手。全国・関東・県内の自転車大会で錚々たる戦績を持つ若き勇士たちだ。選手会自らが県内高校自転車部に声をかけ選手を選抜、各校長先生あてに企画の意図を説く文書まで送付した。その努力の結果、ついに本日競争が実現する。選手会の面々も興奮気味だ。
発走1時間前。選手たちは選手会事務所から管理棟へと移動する。ご家族たちはスタンドで観戦だ。ゴール線前の一室が控室とされ、まず選手一同に対して選手会副支部長および事務長より注意がされる。
「競争はとにかく前に踏むこと。むやみにバンクの上に上がろうとしないよう」
「あまり緊張せぬよう」
「勝つことよりも魅せる競争を」
「ヤジを飛ばすお客が…多分いるが(笑)、気にしないよう。車券を買ってるわけではない」
等々。生まれて初めて競輪客の前での競争。緊張するなという方がムリかと思うが…。
一旦解散となり、しばらくすると廊下の方から凄い音が。見にゆくと、各自ローラーを踏んでウォーミングアップだ。脇に 顧問の先生(元選手?)がついて、時折何か話しかけている。作戦会議だろうか。勝つことよりも…という訓示はあったが、そりゃ走るからには勝ちたいに決まっている。各選手の顔つきも、緊張から徐々に勝負の表情になってきているようだ。
休憩中の選手に、場広報部隊がインタビューをする。
4番・相川選手「将来は競輪選手になって稼ぎたい。目標は先輩でもある平原康多選手」。
8番・加藤選手「自転車の魅力はスピード。普段の練習は山へ。目標はやっぱり選手になること」。
ほとんどの選手がもう具体的 に競輪学校の受験を目指しているとコメント。ならば、いずれ同期・ライバルになるかもしれない他の選手にはなおのこと負けたくないだろう。
発走の時間が迫る。いつもと違う競輪用のヘルメットを被り、レーサー(自転車)を持ち出してバンク脇に8選手が整列。写真を撮りながら、フトモモあた りに目をやると、どの選手も幼い顔つきながらなかなかにご立派な脚。隣に立つ選手会副支部長・二塚正裕選手によれば「まだまだ競輪選手の体つきには程遠い」とのことだが、この中に将来の大スターがいてもおかしくない雰囲気ではある。
さぁ、各選手がバンクに登場だ。金網前のお客も「なんだなんだ」と興味深そうに見つめる。今日の場内実況は本職の綿貫アナ。本物の競輪競争と同じアナウンスが場内に響く。
レースは誘導の後ろにつけた2.草場がそのまま先行。最終ホームから捲り上げた5.馬場が2角で捲りきると、草葉の番手につけていた3.佐山が巧みに馬場後位に切り替え、4角捲り追い込み他を千切ってのゴー ル。2着には4角最後位から直線インを付いて伸びた4.相川、3着には5.馬場が残った。
優勝した佐山選手のコメント
「今日は調子が良かった。来年夏には競輪学校を受験したい」。
この企画は面白い! 様々な効果が期待できるものでもあり、ぜひ他県でも展開できないものだろうか。ゆくゆくは「都道府県対抗戦」、もしくは年末に「高校生GP」の開催といきたいものだ。
(2007年5月20日号)
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